18. カラコラムハイウェイ(Karakoram Highway)
 今回の旅行の目的は本格的な地質調査を行うべき地域を絞り込むことにあります。そのためにカラコラムハイウェイを使って中国との国境であるフンジェラーブ峠まで往復することを目指しました。カラコラムハイウェイの経路は、ヒマラヤ山脈の麓を迂回してインダス川の流れが刻み込んだ渓谷に入り、渓谷沿いにコーヒスタン地域を横断してカラコルム山脈に到達します。地質学上の区分ではインドとユーラシアの衝突前にインド側に属していた地層・岩石からコーヒスタン島弧の地層・岩石、そして元々ユーラシア大陸側に属していたものまでを観察することができます。このあたりの話はコーヒスタン島弧とその周辺の地質図を示して説明したいところです。しかし、学術雑誌に載っている図面の著作権は通常は出版社が持っていて、自分が描いた図面であってもWeb掲載の許可を得るのは面倒なのです。地質図をご覧になりたい場合は、"Kohistan", "geological map"といったような単語でネット検索してください。大学のネットワークに繋がっているパソコンであれば、関連する論文のファイルを無料で読めるでしょう。


19. アボッターバード(Abbottabad)まで
 5月11日の朝8時に起きたときには昨日の疲れが残っていて身体が重くぐったりした状態でした。そこで、この日はアボッターバードまで半日の楽な行程で止めることにしました。9時20分にラーワルピンディを出発し、グランドトランクロードを西に向かって進みます。右手の遠方に山が見えますが、それが次第に近づいてきます。左前方にはオベリクス(尖塔)が屹立しているのが見えます。この山の麓に「主境界断層」と呼ばれる断層があります。断層面を境に下側に砂岩を主体とする地層があり、その上側に石灰岩を主体とする地層が載っています。この断層がヒマラヤ山脈を構成する岩石の南限に相当します。道路はオベリクスが立っている尾根の右手の切り通しで山を越えます。


 しばらく進むとタキシラ(Taxila)という町を通過します。このあたりは、いわゆるガンダーラ地方の東部にあたるそうです。かつては仏教が盛んであったので仏教寺院の遺跡がありますが、現在の住民はほとんどがイスラム教徒です。その先のハサンアブダール(Hasanabdal)という町のはずれにさしかかるところで、グランドトランクロードからカラコラムハイウェイが右手に分岐します。グランドトランクロードを直進するとペシャーワルに至ります。カラコラムハイウェイに入るとすぐにハサンアブダールのバザールを通過します。そこからしばらくの間は平野の中を進みます。広い川を渡ると、その先の遠方に見えている山が次第に近づいてきて長い登り坂にさしかかります。坂を登りきったところからその先がアボッターバードの町です。到着時刻は12時10分。ラーホールからこここまでバイクのメーターで422kmでした。

アボッターバードのバスステーション(2005年に再訪したときには市街地が大きくなって、もっと賑やかでした。)

20. 大麻
 カラコラムハイウェイの道端には「大麻」が生えていることがあります。アボッターバードからその先のチャタールプレーンと呼ばれる地域にかけては特によく見かけます。日本では大麻は麻薬・覚醒剤と並んで厳しく取り締まられています。ときどき無許可で栽培している人が捕まってニュースになったりします。大麻は別にめずらしい植物ではなくて昔は日本にも自然に生えていたそうです。現在でも繊維の麻の原料として栽培されています。ただし、栽培を許可された区域外に生えているのが見つかると根こそぎに処分されてしまいますから、ほとんどの人は大麻そのものを見たことがないでしょう。パキスタンでは自生している大麻は放置されているようですが、大麻の樹脂などを無許可で扱うと重罪です。

 下の画像のように道端に普通に生えているものなのですが、なにしろ大麻ですから日本に持ち込むと「懲役」を課せられる可能性があります。上の画像と似たような「葉っぱ」をうっかり持ち帰らないように気をつけてください。インドやパキスタンなどからこの「葉っぱ」を持ち出して、帰路にシンガポールに立ち寄って観光しようとしたとします。シンガポール国内で大麻の違法所持が見つかると「死刑」になる可能性もあります。「知らなかった」と言って許されるようなものとも思えません。


...つづく

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